遺書を書いている


遺書を書いている

しそびれたことが あるならは それはきっと 誰かのせい

遺書を書いている

まだ許せぬことが あるならば それがきっと 生きるわけ

遺書を書いている

言えなかったことが あるならば それを言うために

これを書いている

許せぬ人が もう少ないんだ

しそびれたことだけ まだあるんだ

例えば今年の桜を 父親と見たいとか

大切なあなたに 地元の公園の桜を見せたいとか

あなたとここでまた 一緒に暮らしたいだとか

その姿を見ていたいだとか 触れたいとか

思えばもう あなたとのことでしか 

これからしたいことが

残っていないみたいだ

言いたいことは 尽くせなくて

だからこうして 遺書を書いている

ここにこうして標を残し

思い出や想いを込めた文字を書き綴った

何年かけて書き続ければ

書き尽くせるだろうか

生きる意味が 遺書を書くことだとしても

寂しい とは言わないよ

これがわたしの一生の

思いの丈の贈りもの

あなたに贈る祝いの音

聴いてくれる屑草の

垣根の木と葉の囁きよ

どうかどうか聴きたもう

どうかどうか聴いてくれ

故郷の地に響いてくれよ

わたしは旅立ちを決めた人

残りの時間のせめてもの 生きる時間を

わたしに下さい

ここで書くことは

全てかの子の道のその 導となる宝の言葉

わたしはすでに いないだろう

遺書を書くのは 何度目だろう

あのときかな

あのときかな

もうこれでいいって

心底思えた夜が来て

それでも逃げ出せない因果は廻る

あの日 確かにそうだった

あの日も もしかしたらそうだった

わたしが終わった瞬間は

もう過ぎ去ったあの夏か

今は終わりのその先の昔

だけど

この先を

あなたと約束したから

また明日も来るんだね

今日もまた

この先にある 新しい一日

夢を見破る 日は先延ばし

ここにいさせて 下されと

頭を垂れて 尚まだ見ぬ咲

“202302160645”春を待つ

, ,